財務諸表は会社の成績表!

儲かっている企業は何が違うのか?足踏みしている企業は何が原因なのか?決算書を基に分析し、優秀なビジネスモデルをご紹介します。

通信事業で見るユニットエコノミクス。企業の強みと弱みを見てみよう。

税理士試験を終えましたのでここからまた更新していきます。

今回は法人営業の方におススメ、企業の強み弱みを会計から把握するユニットエコノミクスという概念について、日本の通信会社を例にとって見ていきたいと思います。。

 

 ・売上を見ても会社の違いは判らない

日本の大手通信会社である三社は、その実態が大きく異なります。

しかし、通信事業においては何か大きな違いがあるのでしょうか?それを見るためにユニットエコノミクスという指標を使います。

これを見ることができると何がいいのか。それは、企業の強みと弱みが一気にわかるという点です。

例えば、企業を比較しようとするとまず売上高を見るかと思います。しかし、通信会社は通信のほか、ガジェットの販売、修理など様々な収入が混ざっており、非常に比較しにくい状況になっています。開示されている通信事業の売上をグラフにすると、KDDIが突出していますが、これによってKDDIが一人勝ちしているかどうかわからないのです。

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しかも、これを見てそこからどのように提案をするか?と考えるとさらに難しくなってしまいます。どのように売上を伸ばせばいいのか?もなぜこの3社には差があるのか?もここからは読み解くことができません。それを、ユニットエコノミクスという指標を見ることによって企業に提案できる要素まで分解していこうと思います。

 

・ユニットエコノミクスとは?

ユニットエコノミクスとは、①「顧客を獲得するためにいくら使っているのか」②「その顧客は企業にどれだけのお金をもたらしてくれるのか」といった事を調べる指標になります。

この指標は、シバタナオキさんという「決算書が読めるようになるノート」を公開されている方のお言葉を借りると、「企業のオリジナリティそのもの」ということができます。

必要なデータは①1顧客足立の売上、②その顧客の解約率③顧客獲得のために掛けた費用④それによって増えた顧客の数の4つです。

 

今回の通信会社で使うデータは1.設備投資額2.累計顧客契約数3.一人のユーザー当たりの売り上げ(ARPU)4.解約率の4つのデータを使います。

この4つのデータを使いユニットエコノミクスを調べることで、企業の売上にどの要因が大きく関係してくるのか。他社と比較してどの数値が優秀で、どの数値が劣っていて、結果が異なってくるのかが分かるようになります。

とは言ってもややこしいので、私は下記のような図のイメージを持っています。

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真ん中の箱の左側はライフタイムバリューという①÷②で求める指標です。1ユーザーの現在の価値です。右側は顧客獲得コストという③÷④で求める指標。

企業が1ユーザーを獲得するために支払ったコストを示します。

この2つを比べると、ユーザーを獲得するために掛けたコストに比べてそのユーザーの価値は高いのか?を判断することができます。

 

では、4つのデータの数年分の推移を見て頂き、そこからユニットエコノミクスについて見て頂こうかと思います。

 

・1ユーザーの価値は?を計算できるARPUと解約率

まず通信会社のARPUを見てみましょう。ARPUとは、一ユーザー当たりの売上になります。グラフにしたので見ていきましょう。

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これは、一ユーザー当たりの平均金額を示しています。DoCoMoSoftBankは割引されている額がIRに記載されていますのでそれを反映していますが、KDDIはこの割引額を開示していません。2社では大まかに1000~1200円ほどの割引がなされていますので、KDDIも1000円ほどの割引が行われているものとみなしてARPUを計算しています。

なお、直近1年のデータはこのような数値です。

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これを平均してみると、おおよそ通信会社大手3社の一ユーザー当たりの売上は4000~5000円という事ができるでしょう。通信業界規制産業で大きく差別化することは難しいという噂でしたが、実際に極端な値下げは難しいようです。これをデータとして先ほどの図に落とし込んでいきます。

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これだけでは何とも言えませんので、次に解約率を見ていきます。

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解約率は3社とも非常に低い率になっています。最も高いSoftBankでさえ直近の数字は1.10%。他の業界の解約率に比べて圧倒的に低い数値です。最も解約率の低いDoCoMoに至っては0.69%と、非常に低い数値となります。

 

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このARPUと解約率を使うと、ライフタイムバリュー。すなわち、その1ユーザーが最終的に企業にどれだけのお金を落としてくれるのかが分かります。

方法はとても簡単で、ARPU÷解約率で求められます。例えば、ソフトバンクであれば直近のライフタイムバリューは4,310円÷1.10%=391,818円1ユーザーが契約すると、だいた40万円弱の価値があるという計算になります。これはファイナンスの割引現在価値の概念です。この考え方はまた別の記事で書かせていただきます。

 

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この指標によると、DoCoMoの1ユーザーの価値は68万円、KDDIは56万、SBは39万で、SBは1ユーザーの価値が低いことが分かります。これはSBの解約率が高いことが原因だと思います。例えば、SBの解約率が0.1%下がるだけでSBのユーザー価値は約4万円上昇します。通信会社にとって、解約率は非常に重要な数値であることがよくわかります。

 

・1ユーザーを獲得するためにいくらかかるかを知る

次にその1ユーザーを獲得するために必要な費用を調べてみます。これは掛けた費用にたいしいくらユーザーが増えたのか?を見ると分かります。

通信会社の設備投資額のグラフは下記の通りです。

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ここは少し意外でしたが、SBは他2社に比べて一貫して設備投資額が低いです。とはいえ、それでも直近3ヵ月は1533億円投資していますので、通信産業は投資額が非常に大きいことが分かります。設備投資と累計契約数は、1年間投資し続けてきた結果ですので、設備投資は年間の額を計上します。

 

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そしてこの投資の結果獲得した顧客の総数は以下の通り。

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面白いのは、3社とも大体4000万件に収れんしていっているという事です。全体的には緩やかに伸びてはいっていますが、基本的に一人一台スマホを持つ時代になってきておりますので、頭打ち感が見えます。この顧客は、年間でどれだけ顧客を獲得できたのかが重要となりますので、前年比のデータを計上します。

これで右側の要素も埋まりましたので、顧客一人を獲得するために掛けたコストを計算すると以下のようになります。

 

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ソフトバンクは前年比で顧客が減少していますね。解約率が他2社と比べると高い影響がここにも出てきてしまっているように思います。他2社は顧客を獲得することができていますが、その数に大きな違いがあります。

比較すると、DoCoMoKDDIはかける設備投資額は大きな差がないのにも関わらず。DoCoMoの新規獲得顧客は1100万とKDDIと比べると5倍近い顧客を獲得しています。この結果、DoCoMoは1つの契約を獲得するために約4万円を支払っているのに対し、KDDIは24万円を支払っています。

 

 

さて、すべての箱が埋まりましたので比較をしていきたいと思います。

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1位は圧倒的にDoCoMoですね。1人の顧客を獲得するために5万円弱のお金を使い、なんと68万近い価値を持つ顧客を獲得できています。次点でKDDI、最もまずいのはなんと売上収益で最も高い額を記録していたSBです。

 

・まとめ、もし私が営業マンであれば

さて、これらのユニットエコノミクスを分析し分かったことをまとめます。

DoCoMo

顧客獲得のために掛けた費用に対して獲得できた顧客が非常に多いため、経営的に非常に安定しています。僕が営業マンならここで新規獲得した顧客の年齢層を調べます。その顧客の年齢層が高いのであれば、低い層に訴求するための方法を考えたりすることが必要になってくるでしょう。

 

KDDI

良くも悪くも大手3社の中で真ん中というデータになっています。これは売上でダントツに高い状況と少し異なることをこのデータが示しています。

売上が大きいからといって安心はできないかもしれません。私が営業マンならそのずれの要因をもっと深く探っていきます。加えて、可能であれば解約率でしょうか。この解約率を下げる施策を考え出すことができれば、KDDIDoCoMo以上のユニットエコノミクスを獲得できるかもしれません。

 

SB

ここは課題が非常にはっきりしています。解約率が高いことですね。

私が営業マンであれば、この解約率が高い原因は何かという事、さらに解約率が高いことがSBにお通信事業に大きな影響を及ぼしていることを訴求していくことになるかと思います。SBは通信事業を独立させていく動きがありますので、今後その施策を加速させることができる提案をできると強いかもしれません。

 

いかがでしたでしょうか。売上だけ見ていても気が付かないことをユニットエコノミクスは教えてくれます。このように様々な角度で分解していくことによって、企業にとって効果的な打ち手を見つけることも、企業をより深く理解することも可能です。

法人営業の方は特に、このユニットエコノミクスを使いこなして頂けると非常に面白いかなと思います。